「弔い上げ(とむらいあげ)」という言葉をご存じでしょうか?これは、年忌法要の中でも特に大きな節目となる供養のことです。
仏教では一般的に三十三回忌や五十回忌の際に営まれ、長年続けてきた故人への供養に一区切りをつける重要な儀式とされています。
本記事では、弔い上げの意味や宗教・宗派による考え方の違い、施主側が行うべき事前準備から当日の流れまで詳しく解説しています。
大切な方への最後の供養を心を込めて執り行うための参考にしていただければ幸いです。
弔い上げとは?

弔い上げとは、故人の霊に対する長年の供養を、この法要をもって一区切りとする儀式です。特に仏教においては、三十三回忌または五十回忌といった年忌法要を、弔い上げとして執り行うが一般的です。
この節目を迎えることで、故人は個人の霊から家の祖霊となり、子孫を見守る存在になると考えられています。
弔い上げは、遺族や親族にとっても、故人への供養に区切りをつける大切な機会となります。
しかし、弔い上げを行うかどうか、いつ行うかといった点は、宗教・宗派だけでなく、地域や家の慣習によっても異なります。
仏教の場合は菩提寺に、その他の宗教の場合もそれぞれの宗教者に、事前に確認・相談することをおすすめします。
宗派によって弔い上げの考え方は異なる?

弔い上げは、主に三十三回忌や五十回忌の法要をもって行われるものとしてご紹介しましたが、宗教や宗派によってその考え方や実施方法は大きく異なります。
ここでは、主な宗教における弔い上げに関する考え方を解説します。
仏教の場合
仏教においては、故人の霊は年忌法要を重ねるごとに、徐々に仏様へと近づいていくと考えられています。特に三十三回忌や五十回忌は、故人が完全に成仏し、子孫を守護する祖霊になるとされる重要な節目です。そのため、これらの年忌法要をもって「弔い上げ」とし、以後の定期的な年忌法要を終えるのが一般的です。
弔い上げの法要自体は、僧侶による読経や焼香、参列者による供養など、他の年忌法要と大きく変わるものではありません。しかし、「最後の供養」という意味合いを持つため、より鄭重(ていちょう)に執り行われることが多いようです。
キリスト教の場合
キリスト教では、命日に「召天記念日」として礼拝や祈りを捧げることはありますが、仏教のような弔い上げに相当する明確な概念や儀式は特に定められていません。
キリスト教の教えでは、亡くなった方の魂は既に神のもとへ召されており、地上での供養によって成仏するという考え方はありません。
そのため、年忌法要のような定期的な供養の習慣もなく、弔い上げのような「供養の区切り」を設ける必要性も低いとされています。
ただし、日本では文化的な背景から、キリスト教信者の家庭でも、家族が心の中での「節目」として召天から一定期間が経過した時点で特別な祈りを捧げる、または記念ミサを行うようなケースも見受けられます。
神道の場合
神道では、仏教における年忌に相当する儀式として「式年祭(しきねんさい)」と呼ばれるものがあります。
一般的には1年祭、3年祭、5年祭、10年祭、20年祭、30年祭、50年祭といったかたちで執り行われます。
神道の考え方では、亡くなった方の魂は年月を経るにつれて祖霊となり、やがては守護神のような存在として祀られていくと考えられています。
特に50年祭は大きな区切りとされ、これをもって一般的な式年祭を終了し、以降は祖霊として家の氏神と共に祀られるという考え方があります。
この意味で、神道における50年祭は仏教の弔い上げに相当する儀式と捉えることもできるでしょう。
ただし、地域や家庭によって慣習は異なりますので、神社の神職の方にご相談されることをおすすめします。
【仏教宗派別】弔い上げの考え方を比較

仏教・キリスト教・神道を例に、弔い上げの考え方に違いがあることをご紹介しました。しかし、同じ仏教といっても、宗派によって弔い上げの考え方などに違いが見られます。
ここからは、在来仏教の主要宗派を例に、弔い上げの時期や特徴、考え方をご紹介していきます。
宗派 | 弔い上げの時期 | 考え方・特徴 |
真言宗 | 三十三回忌 | 三十三回忌をもって弔い上げとするのが一般的。故人が成仏し仏の世界に入ると考えられ、法要の締めくくりとなる。ただし、地域や寺院によっては五十回忌や百回忌を行うこともあり、厳密な決まりはない。 |
臨済宗 | 三十三回忌 | 禅宗の一派として、死者が成仏するまでの道のりを重視。三十三回忌を弔い上げとする地域が多いが、五十回忌を最終の供養とする場合もある。弔い上げ後も、先祖としての供養は継続する考え方がある。 |
曹洞宗 | 三十三回忌、または五十回忌 | 禅宗の教えに基づき、故人の魂が成仏するまでを見守る。地域により三十三回忌または五十回忌を弔い上げとする。弔い上げ後は個々の供養から先祖代々の供養へと移行する考え方が一般的。 |
日蓮宗 | 弔い上げという概念自体がない | 日蓮宗では、忌明けの四十九日をもって成仏するという考え方が基本にあるため、他の宗派のような「弔い上げ」という概念は薄いとされる。しかし、慣習として三十三回忌などを年忌法要の区切りとすることもある。 |
天台宗 | 三十三回忌 | 三十三回忌は、故人が十三仏の裁きを経て、最後の審判を受ける節目とされ、この時期に極楽浄土への往生や成仏が叶うと考えられている。そのため、三十三回忌をもって弔い上げとすることが多い。 |
浄土真宗 | 弔い上げという概念自体がない | 他宗派と大きく異なり、阿弥陀如来の本願により、人は死後すぐに往生・成仏すると考える「即得往生」の教えがある。そのため、回忌法要は故人を弔うというよりも、故人の往生を縁として仏法を聞く機会(報恩講)と位置づけられる。形式的な弔い上げの概念は薄い。 |
※この表は一般的な傾向をまとめたものであり、同じ宗派でも地域や寺院によって慣習に違いがあることをご理解ください。
弔い上げの時期や考え方は、地域の風習や各家庭の事情によっても変わることがあります。詳細については、各地域の寺院に直接ご確認いただくことをおすすめします。
弔い上げ当日の流れ

同じ仏教でも宗派によって弔い上げの考え方や時期に差異があることをご紹介しましたが、その規模や当日の流れについても、各家庭の事情や地域性などにより様々です。
故人の冥福を祈る最後の法要であることから、通常の法要よりも盛大に執り行われるケースがある一方、弔い上げの時期ともなると故人を知る方々も少なくなり、また死亡年齢の高齢化に伴い施主側も高齢化していることから、家族や限られた遺族のみで簡素に営まれることもあります。
ここからは、三十三回忌の弔い上げ法要を盛大に執り行うケースを例に、当日の流れについてご紹介いたします。
①受付・案内
弔い上げの法要は菩提寺で執り行われることが多く、まずは会場において施主側が参列者の受付を担当します。芳名帳への記帳と香典の受け取りが一般的です。
受付では簡単な挨拶とともに、当日の流れをご案内することで丁寧な印象を与えられます。
また、法要会場内では親族席と一般参列者席を区分けしておき、案内係を配置することでスムーズな誘導が可能になります。
落ち着いた雰囲気を保ちながら、心のこもった対応を心がけることが大切です。
②施主挨拶
弔い上げ法要の冒頭には、施主による挨拶が行われます。参列者への感謝の言葉とともに、これまでの供養の歩みや弔い上げの意義について簡潔に触れるのが一般的です。
格式張る必要はありませんが、誠意を込めた言葉で場を整えることで、その後の法要がより厳かな雰囲気となり、僧侶の読経に入る前の重要な一幕となります。
③読経、供養
続いて、僧侶による読経が始まり、故人と先祖代々の霊位に向けて供養が行われます。弔い上げにあたる法要は、仏教の教えに基づいた「追善供養」の集大成とされる特別なものです。
宗派によって読まれる経典や読経の時間は異なりますが、家族や親族が心を一つにして故人への感謝を捧げる、最も大切な時間であり儀式といえるでしょう。
④焼香
読経の途中、または読経後に、ご参列者が順番に焼香をおこないます。焼香は、仏様や故人様への敬意を表し、自身の心身を清めるという意味合いも持ちます。
香炉の前で静かに手を合わせる時間は、故人様を偲び、心を通わせる大切な機会です。
焼香は、施主様、ご遺族、親族、一般参列者の順でおこなわれるのが一般的ですが、地域や宗派によって、焼香の回数や作法が異なりますので、事前に確認しておくと安心です。
⑤故人様の魂を先祖代々の位牌に移す
弔い上げでは、個別の位牌に宿った故人様の魂を先祖代々の位牌へと移す儀式が行われることがあります。これは供養の一つの区切りとして、故人様が浄土に導かれ、個別の供養から先祖としての供養へと移行することを意味します。
この儀式では、僧侶が特別な読経や作法を執り行い、厳かに魂を先祖代々の位牌へと移します。ご家庭によっては「閉眼供養(へいがんくよう)」と呼ばれる儀式を行い、個別の位牌は納めるか、お寺に預けるという形をとることもあります。
この儀式によって、故人は個としての供養から、先祖の一員としての供養へと移行し、弔い上げ以降は年忌法要ではなく、お盆やお彼岸といった先祖供養の中で敬われることになります。
⑥お墓参り

弔い上げ法要の後、墓地や納骨堂に移動してお墓参りをするのが一般的な流れです。お墓を新しく建立した場合や、まだ納骨を済ませていない場合は、この機会に納骨式をおこなうこともあります。
墓前に花を手向け、お線香をあげ、故人様への感謝の気持ちを込めて手を合わせます。地域によっては、柄杓で墓石に水をかける「水向け」の習慣も見られます。
静かに故人様を偲び、これまでの供養を締めくくり、新たな気持ちで日々を送るための節目となる大切な時間です。
⑦お斎(おとき)
お墓参りや納骨式を終えた後、お斎(おとき)と呼ばれる会食の席を設けるのが一般的です。これは、法要にご参列いただいた方々への感謝の気持ちを表し、故人様を偲びながら思い出話などを語り合うための時間です。
かつては精進料理が基本でしたが、近年では会席料理など和洋折衷の形式も一般的になっています。会食の締めくくりに、参列者の方々へ引き出物をお渡しすることもあります。
和やかで温かい雰囲気の中、弔い上げの一日を締めくくります。
弔い上げまでに準備しておきたいこと

弔い上げ当日の流れを簡単にご紹介しましたが、これらを円滑に行うためには、事前の準備が必要不可欠です。次の事前準備確認リストを参考にしながら準備を進めていきましょう。
【事前準備確認リスト】
日程と会場の確認
駐車場の確認
僧侶への依頼とお布施の準備
参列予定者への案内状の作成・送付
参列者の確認
供花・供物・線香の手配
会食(仕出し・会場の予約など)の準備
引き出物の手配(地域の慣習に合わせて)
また、準備は1〜2か月前を目処に始めると余裕を持って進められます。特に、僧侶との日程調整は早めに行うようにしましょう。
弔い上げに関してよくある質問

弔い上げについてよく寄せられる質問についてお答えします。
Q.弔い上げは必ずおこなわなければならないのでしょうか?
弔い上げの法要は、これまでおこなってきた年忌法要に区切りをつけるものですが、「必ずおこなわなければならない」という決まりはありません。
本記事の中でも触れていますが、浄土真宗のように弔い上げの考え方自体がない宗派もあります。
弔い上げをおこなうかどうかは、宗派や地域の慣習、そして何よりご家族のお考えによります。弔い上げの法要を営まないという選択をされる場合でも、故人様を偲び、心を込めて供養することが大切です。
判断に迷われる場合は、お付き合いのあるお寺に相談してみることをおすすめします。
Q.弔い上げには誰を招く?
弔い上げの法要は、基本的には家族や近親者を中心として執り行われることが一般的です。加えて、故人と特に縁の深かった方々をお招きするケースもあります。
参列者を決める際は、故人との関係性を考慮し、事前に丁寧にご案内して、無理のない範囲でご参列いただくとよいでしょう。
弔い上げが長い年月を経た法要であることを踏まえ、参列者の高齢化などにも配慮することが大切です。
Q弔い上げの時期を早めても良い?
弔い上げは三十三回忌や五十回忌で迎えるのが一般的とされていますが、事情によっては時期を早めておこなうことも可能です。
例えば、施主様やご参列者の高齢化、ご親族が集まるのが難しいなどの理由から、十七回忌や二十七回忌をもって弔い上げとすることもあります。
時期を早めることを検討される場合は、まずはご家族・ご親族とよく相談し、その意向を汲んでくださるか、お付き合いのあるお寺にご相談されることをおすすめします。
おわりに
弔い上げは、これまでの年忌法要に一区切りをつけ、故人様をあらためて偲ぶ大切な儀式です。宗派や地域、家庭の事情により時期や考え方はさまざまですが、最も大切なのは、感謝と祈りの心を込めて供養を行うことです。
ご家族で話し合うとともに、必要に応じて菩提寺とも相談しながら、故人様らしいかたちで弔い上げの節目を迎えましょう。
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