近年、さまざまな事情から「骨葬(こつそう)」という葬送方法が注目されています。骨葬とは、葬儀・告別式の前にご遺体を火葬し、ご遺骨の状態で葬儀を執り行うお見送りの方法です。
北海道や東北地方など特定の地域では、古くから一般的な慣習として行われていますが、近年では、故人様が遠方で亡くなられた場合や、感染症予防の観点、ご遺族の負担軽減といった理由から、地域を問わず選択されるケースも見受けられます。
この記事では、骨葬の具体的な流れや選ばれる理由、メリット・デメリットなどについて詳しくご紹介します。葬儀の形式を検討されているご遺族の方々にとって、参考になる情報をお届けいたします。
骨葬の最大の特徴|「前火葬」という形式

日本で行われる多くの葬儀は、お通夜、葬儀・告別式を執り行った後に火葬場へ移動し、最後のお別れを経て火葬を行う「後火葬(あとかそう)」と呼ばれる流れが一般的です。
これに対し「骨葬(こつそう)」は、葬儀・告別式(本葬儀)の前に火葬を済ませる「前火葬(まえかそう)」と呼ばれる形式を指します。
文字通り、祭壇にご遺骨(お骨壷)を安置して葬儀・告別式を執り行うことから「骨葬」と呼ばれています。
この「前火葬」という形式は、北海道や東北地方、北陸・中国地方の一部など、特定の地域では一般的な習慣として根付いています。
例えば、雪深い地域では、冬場に参列者が集まることやご遺体の搬送が困難になることから、先に火葬を済ませる形式が定着したともいわれています。
一方で、こうした地域的な慣習だけでなく、後述するような様々な理由から、「後火葬」が主流の地域にお住まいの方にも、骨葬(前火葬)が選択されることがあります。
一般的な葬儀との流れの違い
一般的な葬儀の流れは以下の通りです
- ご逝去・ご遺体の安置
- お通夜
- 葬儀・告別式
- 火葬
- 初七日法要・精進落とし
一方、骨葬の基本的な流れは以下のように進みます
- ご逝去・ご遺体の安置
- 火葬(近親者のみで執り行うことが多い)
- お通夜(省略される場合もある)
- 葬儀・告別式(ご遺骨を中心に執り行う)
- 初七日法要・精進落とし
このように、火葬のタイミングが大きく異なることが骨葬の最大の特徴です。中には火葬の後にお通夜を行うケースもありますが、いずれにせよ「ご遺骨の状態で主要な儀式を行う」という点が共通しています。
骨葬における祭壇の特徴
骨葬の場合、通常の葬儀のようにご遺体を安置する代わりに、祭壇の中央に骨壷を置き、周囲に故人の遺影や供花、供物を配置します。ご遺体ではなくご遺骨をお花で囲み、しめやかに弔うスタイルとなります。
骨葬においても、仏式や神式、キリスト教式など、様々な宗教形式に対応することが可能です。ご家族が信仰する宗教や故人様の希望に沿った儀式を執り行うことができます。
骨葬が選ばれる主な理由や状況

前章で解説した通り、骨葬は特定の地域における慣習である一方、様々なご事情から地域を問わず選択されることがあります。
では、具体的にどのような理由で骨葬(=前火葬)が選ばれるのでしょうか。主なケースをご紹介します。
故人様が遠方で逝去された場合
故人様がご自宅や郷里から遠く離れた場所(旅行先、単身赴任先など)で亡くなられた場合、ご遺体のまま長距離を搬送するには、専用の車両や手続きが必要となり、時間的・費用的な負担が大きくなることがあります。また、移動に伴うご遺族の精神的・肉体的なご負担も少なくありません。
このような場合に、ご逝去された現地の火葬場で火葬を執り行い、ご遺骨の形で故郷やご自宅へお連れすることで、様々な負担を軽減できるため、骨葬が選択されることがあります。
感染症により逝去された場合
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」では、特定の感染症(一類感染症、二類感染症の一部など)で亡くなられた場合、感染拡大防止の観点から、原則として24時間以内の火葬が義務付けられています。この規定に該当する場合、必然的に火葬を先に行う「骨葬」の形式がとられます。
▶︎参考
厚生労働省:一類感染症により死亡した患者の御遺体の火葬の取扱いについて
また、近年では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響も無視できません。流行のピーク時には、感染対策として、ごく限られた近親者のみで火葬を行う「直葬(ちょくそう)」を選択せざるを得なかった方が多くいらっしゃいました。
その結果、「十分なお別れができなかった」「もっと多くの人に故人を偲んでほしかった」といった「弔い不足」を感じるケースが少なくありませんでした。
このような状況を受け、後日改めて親族やご友人などが集まり、しっかりとしたお別れの場として「骨葬」(この場合は「本葬儀」としての意味合いが強い)を執り行うという選択肢が注目されました。
その他の感染症の場合でも、状況に応じて早期の火葬が推奨されたり、ご遺族や関係者が安全面を考慮して希望されたりといった事情から、骨葬が選ばれるケースも少なくありません。
時間的制約がある場合
親族が遠方に住んでいる場合や、海外から帰国する必要がある親族がいる場合など、全員が集まるまでに時間がかかる状況では、先に火葬を済ませておき、全員が揃ったタイミングでご遺骨を囲んで葬儀を執り行うという選択肢があります。
ご遺体の状態に配慮が必要な場合
不慮の事故や事件に巻き込まれた場合、警察による検死や調査のために、ご遺族様のもとへご遺体が戻るまでに時間がかかることがあります。
また、残念ながらご逝去から発見までに時間が経過し、ご遺体の状態が大きく変化してしまっているという状況も考えられます。
このような場合に、そのままの状態でのご対面がご遺族や参列者にとって大きな精神的負担となりうると考えられるとき、故人様との最後のお別れをできるだけ穏やかな形で行いたいという思いから、先に火葬を済ませ、ご遺骨の状態で葬儀を行う「骨葬」が選択されることがあります。
社葬や団体葬など、準備に時間を要する場合
企業が施主となる社葬や、各種団体が関わる団体葬など、規模が大きく、関係者も多岐にわたる葬儀の場合、参列範囲の確定、日程調整、会場の手配、関係各所への連絡・調整など、入念な準備に相応の時間が必要となります。
このようなケースでは、まずご遺族様を中心とした密葬で火葬までを済ませ、後日、準備が整った段階で改めて、ご遺骨をお迎えして本葬儀(社葬・団体葬)を執り行う「骨葬」の形式をとることで、関係者への配慮を示しつつ、より柔軟な日程調整が可能になります。
地域の慣習・しきたりである場合
これまでの理由とは異なり、地域に根差した慣習として骨葬が行われるケースです。先にも触れましたが、北海道や東北地方をはじめとする一部の地域では、歴史的・気候的・文化的な背景から、「前火葬(火葬を先に行う)」が一般的な葬送習慣として受け継がれています。
これらの地域にお住まいの方々にとっては、骨葬は特別な事情がなくとも、ごく自然な、慣れ親しんだ葬儀の形式として、ご遺族様や地域社会に受け入れられています。
骨葬のメリットと注意点

これまでの章で、骨葬が様々な理由や背景から選択されることを解説してきました。地域によっては古くからの慣習である一方、状況に応じて合理的な選択肢ともなり得る骨葬ですが、他の葬儀形式と同様に、メリットだけでなく注意すべき点(デメリット)が存在します。
ここでは、骨葬を検討する際に知っておきたい主なメリットとデメリットを、それぞれ具体的に解説いたします。
骨葬のメリット
まず、骨葬を選択することの主なメリットをご紹介します。
遠方からの搬送における負担軽減
故人様がご自宅や郷里から遠く離れた場所で亡くなられた場合、ご遺体を長距離搬送するには、寝台車などの専門車両の手配が不可欠であり、距離に応じて費用も高額になる傾向があります。
特に海外からの搬送となると、手続きも複雑で費用負担はさらに大きくなります。
一方、骨葬(前火葬)を選択し、現地で火葬を済ませれば、その後はご遺骨の搬送となります。
ご遺骨であれば、飛行機や新幹線などの公共交通機関を利用して、ご遺族がご自身の手で故郷へお連れすることも可能です(※利用する交通機関の規定をご確認ください)。
これにより、ご遺体の搬送に関わる費用と、手続きや移動に伴うご遺族の身体的・精神的な負担を大幅に軽減できる点は、骨葬の大きなメリットといえるでしょう。
精神的な負担の軽減
不慮の事故やご病気、あるいは発見までに時間が経過したなどのご事情により、ご遺体の状態が変化し、そのままのご対面がご遺族にとって精神的につらい状況となることも考えられます。
しかしながら、ご遺骨の状態で葬儀を行う骨葬であれば、こうしたお別れの際の精神的な負担を和らげ、より穏やかな気持ちで故人様をお見送りできる可能性があります。
時間的制約への対応
ご遺族の事情(例えば、海外在住の親族の帰国を待つ必要があるなど)や、火葬場・斎場の空き状況、菩提寺の都合などですぐに葬儀・告別式を行えない場合でも、先に火葬を済ませる骨葬であれば、ご遺体の安置期間や状態維持に関する心配・負担を軽減できるという実用的な側面もあります。
骨葬におけるデメリット・注意点
骨葬には上記のようなメリットがある一方で、注意しておきたい点も少なくありません。骨葬を選択するうえで、デメリットを理解しておくことも重要です。
故人様の「お顔を見てのお別れ」が限られる
骨葬は、葬儀・告別式の前に火葬を行うため、祭壇にはご遺骨(お骨壷)が安置されます。そのため、一般的なお葬式(後火葬)のように、葬儀・告別式の場で故人様の安らかなお顔を拝見しながらお別れをする、ということが叶いません。
お身体のある故人様と対面できるのは、基本的に火葬前の限られた時間のみとなります。
「故人様と過ごす最期の時間が短く感じられる」「しっかりお顔を見てお別れをしたかった」と感じ、寂しさや心残りを覚えるご遺族や参列者の方もいらっしゃる可能性がある点は、念頭に置いておく必要があります。
関係者の理解を得にくい場合がある
北海道や東北地方など、骨葬(前火葬)が一般的な地域を除いて、多くの地域では「お葬式といえば、お通夜、葬儀・告別式の後に火葬」という後火葬の形式が広く浸透しています。
そのため、後火葬が主流の地域で骨葬を選択する場合、ご親族、特にご年配の方々や、地域によっては菩提寺(お付き合いのあるお寺)などから、すぐには理解を得られず、戸惑いや反対意見が出る可能性があります。
「昔からの慣習と違う」「お顔を見てお別れできないのは故人に失礼だ」といった考えから、意見の相違が生じることも想定されます。
後々のトラブルを避け、関係者全員が心から納得して故人様をお見送りするためにも、何らかの事情で骨葬を選択する場合は、その理由を事前にご親族や関係各所に丁寧に説明し、十分な理解を得ておくことが大切です。
骨葬の費用目安
骨葬にかかる費用は、基本的には一般的な葬儀と大きくは変わらないとされています。主な費用項目としては、以下のようなものが挙げられます。
- 火葬料金(公営の火葬場なら0〜10万円程度)
- 骨壷代
- お布施
- 葬儀会場の使用料を含む葬儀社への依頼費用
- 飲食接待費
- 会葬御礼
- 香典返し
地域や葬儀の規模、内容によって金額には幅がありますが、一般家庭で行われる骨葬の場合、おおよそ50万円〜150万円前後が費用の目安となるでしょう。
骨葬に関してよくある質問

骨葬についてよく寄せられる質問について、Q&A形式でお答えします。
Q.骨葬と一般的な葬儀の違いは?
A.骨葬は火葬を先に行い、ご遺骨にした状態で葬儀を行う形式です。葬儀・告別式を終えてから火葬にするといった一般的な葬儀とは流れが異なります。
Q.骨葬はどこへ手配を依頼するの?
A.骨葬を希望する場合は、まず葬儀社にその旨を伝えることが大切です。一般的な葬儀とは火葬の時期や式の進行などが異なるため、葬儀社だけでなく菩提寺にも相談したうえで、関係者とも事前に十分な打ち合わせを行いましょう。
Q.骨葬後の法要の流れは?
A.骨葬後の法要は、一般葬などと同じで、四十九日、一周忌、三回忌といったように仏教の法要は通常通り行われます。菩提寺と相談しながら進めましょう。
おわりに
今回は、祭壇にご遺骨を安置して執り行う「骨葬」について、詳しく解説いたしました。板橋区・荒川区をはじめとした関東地方では、あまり知られていない葬儀形式ではあるものの、何らかの事情で必要になるケースもある点をご理解いただけたかと思います。
記憶に新しいところでは、新型コロナウイルスの感染拡大により、感染防止のため、通夜や告別式を行わず火葬のみを行う「直葬」を選択せざるを得ない状況がありました。
このような状況下で、大切な家族を見送ったご遺族様の中には、十分なお別れができなかったことに心残りを抱える方もいらっしゃいます。
そうしたご遺族様の気持ちに寄り添うため、一部の寺院などでは「弔い直し」として「骨葬(こつそう)」を営む取り組みが始まっています。
ご遺骨を本堂に安置して、僧侶による読経でご供養することにより、心残りを解消する新たな供養の形として注目されています。
多くの方にとって馴染みのない「骨葬」ですが、さまざまな状況に対応できる葬儀形式の一つです。
もしもの時の備えとして、本記事の内容を頭の片隅に留めておいていただければ幸いです。
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