「生前の面影を残したまま、故人様をお見送りしたい」と考えるご遺族様は少なくありません。そんな願いを叶える技術が「エンバーミング」です。
今回は、エンバーミングの意味や必要な場面、メリット・デメリット、費用や歴史などについて解説していきます。最期のお別れも大切な思い出となるよう、お役立ていただければ幸いです。
エンバーミングとは
エンバーミングとは、ご遺体に防腐や殺菌などの科学的な処置を施し、腐敗を抑えるとともに生前の姿に近づける技術のことをいいます。簡単に言いますと、血液を防腐液に入れ換えることで体内を清浄に保ち、さらに修復や化粧によって穏やかな表情に整えるということです。
その結果、ご家族の皆様は安心して故人様と対面することが可能となり、最後の時間を落ち着いて過ごせるようになります。
日本ではまだ普及段階にありますが、アメリカでは一般的な文化として根付いており、その実施率は90%を超えているとも言われています。
エンバーミングが必要とされる場面

エンバーミングとは、生前の姿に近づける科学的な技術だとご説明しました。続いては、実際にどのような場面で必要とされるのかを見ていきましょう。
エンバーミングは単なる保存技術にとどまらず、ご遺族様が心穏やかにお別れできるようサポートする役割も担っています。このため、海外からのご遺体搬送などで葬儀(火葬)までに日数が空く場合や、環境の制約、衛生面など、何らかの対応が必要となる場合に、特に効果を発揮すると考えられています。
火葬まで日数がかかる場合
ご遺体の衛生的な保存は、冷却保存だけでは数日程度が限界です。このため、葬儀の日程、また火葬場の休みや都合などで火葬までに一定の日数が必要となる場合は、ご遺体の状態が変化してしまう可能性が否めません。
エンバーミングを施すとご遺体は10日以上の安置が可能になることも多く、安心してお別れの時間を設けることに繋がると言えます。
感染症を防止する必要がある場合
ご遺体の腐敗が進むと細菌が発生し、感染症のリスクが高まります。特に、夏場や湿度の高い環境では腐敗の進行が早いため、衛生面への配慮は不可欠です。
エンバーミングには、ご遺体を殺菌・消毒することで感染症を予防する効果もあります。安心して故人様との最後の時間を過ごすためにも、また、会葬者や葬儀スタッフへの配慮としても、エンバーミングは大切な処置です。
海外から空輸で搬送する場合
海外で亡くなられた場合は、日本へご遺体を搬送するまでに長時間を要します。こうした中、エンバーミングは国際ルールで推奨されており、多くの国際線では、エンバーミングを施していないご遺体は受け入れられないという規則があるほどです。
また、日本国内でも、できるだけ安らかな状態で故郷に戻すことが可能となる大切な技術といえるでしょう。
遺体の修復が必要な場合
事故や病気で遺体が大きく損傷している状態であっても、エンバーミングで修復・形成し、生前の姿に近づけることが可能です。これは、ご家族の皆様にとって、いつもの表情に戻った故人様と再会できるという大きな意味を持ちます。
見た目の衝撃が和らぐことで、気持ちを落ち着けてお別れに臨めるとともに、悲しみを少しでも軽減する心のケア、すなわちグリーフケアにもつながると言えるでしょう。
エンバーミングの流れと費用

エンバーミングが必要とされる場面についてご紹介しました。中でも、海外を中心に、遠方で最期を迎えられた故人様を搬送する際には欠かせない技術です。
ここでは、エンバーミングの一般的な流れについてご紹介します。
エンバーミングの流れ
エンバーミングの一般的な流れは、次のとおりです。
| 流れ | 詳細 |
|---|---|
| (1)ご遺体の搬送 | エンバーミング専門施設にご遺体を移送する |
| (2)洗浄・消毒 | 全身を洗浄し、消毒する |
| (3)防腐処理 | 血液を防腐液に入れ替える(腐敗の停止) |
| (4)修復・形成 | 外傷や損傷を修復し、生前の姿に近づける |
| (5)化粧・着替え・納棺 | 死化粧を施し、衣服を整えて納棺する |
他のケアとの違い
エンバーミングと混同されやすいものに「エンゼルケア」や「死化粧」などがあります。
エンゼルケアは、ご遺体を清拭し衣服を整えるなど、旅立ちの準備を整えるケアのことで、死化粧は、故人様の表情を整え、口紅や白粉などで外見をきれいにする化粧のことを指します。
このため両者は、体内の防腐処置や殺菌を行い、ご遺体の衛生面や保存性を大きく改善するというエンバーミングとは大きく異なるものです。
エンバーミングは、お見送りまでの時間を長く確保しなければならないという場合に有効な処置と言えます。
エンバーミングの一般的な費用は15〜25万円
エンバーミングにかかる一般的な費用は15万〜25万円ほどで、ご遺体の状態や搬送距離などによって変動します。
また、安置や搬送費用が含まれるケースもありますが、遠方の場合は追加料金が発生することもあります。事前に見積もりを取り、確認しておくことも大切です。なお、エンバーミングには保険や公的補助は基本的に適応されません。
エンバーミングのメリット・デメリット

ここまでエンバーミングの流れや費用の目安をご紹介してきました。続いて、エンバーミングについてのメリットや注意点を見ていきましょう。
エンバーミングのメリット
まずはエンバーミングのメリットからご紹介していきます。
エンバーミングを行うと、ご遺体を最大で50日間保存することが可能になると言われています。また、殺菌と消毒で感染症のリスクを低減し、修復や化粧によって生前の姿に近づけることも可能です。
このため、エンバーミングは、急な別れに直面した場合など「少し時間をかけて準備したい」あるいは「遠方に住む家族にも立ち会わせたい」といった想いに対応が可能です。
また、保冷室を使わずに自宅で安置することも可能となることから、「家庭的な雰囲気の中で最後の時間を過ごせた」「元気なころの面影を感じながらお別れできた」など、ご遺族に対するグリーフワークの一つとも言われています。
エンバーミングのデメリット
メリットが多いエンバーミングですが、実施にあたり知っておきたいデメリットや注意点もあります。
まず費用面に関してです。一般的にかかると言われている料金は、平均で15〜25万円と決して安くはなく、家計にとって大きな負担となることも考えられます。また、処置には数時間を要するため、その間は故人様と離れなければならず、気持ちの整理が難しいと感じるご遺族も少なくありません。
さらに、エンバーミングではメスを使用する場合もあることから、宗教的な理由や心理的な抵抗を覚えるという方も見られます。
なお、日本では依頼できる施設が限られているため、希望しても必ずしも利用できるとは限りません。
こうしたことからエンバーミングのメリットとデメリットも踏まえたうえで「故人様らしい見送り方」を考えることが大切だと言えるでしょう。
エンバーミングの歴史

エンバーミングの特徴は、何と言ってもご遺体の保存が維持できること、そして感染症のリスクを低減できることにあると言えます。
続いては、そもそもこの技術がどのように生まれ、発展してきたのかを見ておきましょう。
その技術は古代エジプトが起源
エンバーミングのルーツは、古代エジプトのミイラ製作に遡ると言われています。これは、宗教的な理由から、肉体を永遠に近い形で残そうとして生まれた技術で、薬草や樹脂を用いた処置が行われたと考えられています。
遺体の防腐、修復といった面で、この処置こそが現代のエンバーミングの原点だと言われています。
ヨーロッパでの技術的発展
中世から近代にかけては、ヨーロッパの科学者や医師によって防腐の研究が進められました。宗教儀式だけでなく、解剖学の発展や科学的検証のためにも遺体保存が必要とされ、徐々に「医学的な技術」として洗練されたと言われています。
アメリカの南北戦争が普及の契機
エンバーミングが広く知られるようになった大きな契機は、1860年代に起こったアメリカ南北戦争です。
この戦争で、戦地で亡くなった兵士の遺体を故郷に送り届ける際にエンバーミングによる処置が活用されました。これが、エンバーミングが広く知られるようになったきっかけだと言われています。
その後、一般社会においてもこの技術への需要が高まり、徐々に普及し、発展していったようです。
日本と海外におけるエンバーミング事情
エンバーミングの歴史的な背景を見てきました。続いて、現在の日本と海外における普及状況を比較してみましょう。
アメリカ・北欧での普及率
エンバーミングの実施率は、アメリカやカナダでは90%~95%、イギリスなど北欧では70%を超えています。
これらの国々では、遺族が落ち着いて集まることができる時間を確保できる点が評価され、葬儀の標準的な流れとして、また文化の一部としてエンバーミングが定着しているものと言えます。
日本における導入と普及
日本では1974年に川崎医科大学で初めてエンバーミングが導入されました。その後1988年に国内初の専門施設が誕生し、1993年には自主基準研究会が設立され、現在は2009年に一般社団法人となったIFSA(日本遺体衛生保全協会)において、その普及と技術向上に取り組まれています。
2024年、IFSAの発表によると、エンバーミング施設は32都道府県で90センター、年間処置件数82,068件、累計で886,542件とされています。
まだまだ限定的という面は否めませんが、徐々に浸透している段階にあると言えます。最寄りのセンターがどこなのか、同法人のホームページなどで確認すると良いでしょう。
エンバーミングに関してよくある質問

ここからは、エンバーミングについてよくある質問をQ&A形式でご紹介していきます。
Q1. エンバーミングを依頼するときの注意点は?
エンバーミングによる処置を行うかどうかは、まずは家族や親族の間でしっかりと相談することが大切です。
また、処置を行うには専門の施設と資格を持った「エンバーマー」が必要となるため、信頼できる葬儀社や専門機関に依頼することが重要です。また、事前に費用や処置内容を確認しておくと安心です。
Q2. エンバーミングは法律に違反しないの?
日本でもエンバーミングは法に触れるものとはされておりません。
また、IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)では、適切な実施と倫理的な配慮を徹底するようガイドラインを定めています。エンバーミングは安心して依頼できる行為と言えるでしょう。
Q3. 故人の遺体はどのくらいもつの?
IFSAではエンバーミング処置後のご遺体の保存期間を50日を限度とする自主基準を定めています。通常の葬儀であれば十分な期間だと言えます。
Q4. どこに依頼すればいいの?
エンバーミングは、葬儀社を通じて依頼するのが一般的です。葬儀社では、エンバーミングの専門施設と提携しているケースが多いです。
おわりに

エンバーミングは、故人様を生前の姿に近づけ、安心してお別れの時間を過ごすために有効な技術です。また、ご遺体の腐敗を防ぎ、感染症のリスクが抑えられるだけでなく、ご遺族様の心を支えるという、いわばグリーフケアの役割も担っています。
日本ではまだ普及の途上という段階にありますが、必要な場面では大きな助けとなります。費用や手続き、施設の有無などを事前に確認し、家族間でよく相談して選択することをおすすめします。
「故人様らしくお見送りしたい」「少しでも心穏やかにお別れしたい」そんな思いを叶えるためにも、エンバーミングという選択肢があることを頭の隅に置いておくと良いでしょう。
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